この本は減圧症の治療を終え、復帰まで待機している時に発売されたので、条件反射的に買った本です。
もともとマリンダイビングに掲載されていた「イントラのための潜水医学セミナー」の記事をベースにしており、一般のレジャーダイバーやインストラクターがターゲットとなっています。
私の偏見なんですが、マリンダイビングの記事がベースなので、内容は全然期待していませんでした。ただ、読んでみるとなかなか面白かったです。
「潜水医学入門―安全に潜るために」との違いは、「潜水医学入門―安全に潜るために」は潜水障害とその治療に関して詳しく書かれているのに対し、本書は潜水障害とその予防について詳しく書かれているので、両者は補完し合えるなぁと思いました。
特に、高血圧や糖尿病とダイビングや薬とダイビングなど、患者であれば気になる点も言及されている点がよかったと思います。その他にもダイビング器材についても書かれてあり、CCRの記事は今まで知らなかった世界に触れることができました。
ただ、気になる点が3点あります。
まず1つ目は、たまに結論だけで、その理由が書かれていない部分があり、「その理由が知りたいのに?」と思う時が度々有りました。勿論雑誌の記事がベースなので、そこまで深く書く必要がないと判断されたのでしょうけど残念です。
もう2つ目は、エンリッチドエアに関する記述です。エンリッチドエアを使うと減圧症リスクが軽減されていると書かれています。その理由として酸素窓が云々と書かれていますが、一般のレジャーダイビングでは、EAN32かEAN36しか使われずそれほど空気と窒素の濃度は変わらないのに加え、ほとんどのダイバーはタンクの交換はしないので傾斜はつかないのにと思ってしまいました。
ちなみにPADIエンリッチドエアのマニュアルでは
ダイバーたちは、普通の空気の減圧不要限界を越えて、減圧不要限界を延長させるためにエンリッチド・エアを使う
エンリッチド・エアを使用すれば、窒素の吸収を減らせるので、エンリッチド・エアを通常の空気の減圧不要限界内で使用することによって、さらに安全性が高まるはずだと考えるかもしれません。しかし、この考え方は間違っています。減圧症(DCI)の発生率はこれ以上下げる事が出来ない程に低いものとなっていますので、窒素の量が少し減ったからといって、安全性の向上際はつながりそうもないのです。
エンリッチド・エアを通常の空気の減圧不要限界内で使用しても、発症率の低下は1パーセントにも及ばないことを、統計が示めしています。ダイバーズ・アラート・ネットワーク(DAN)や、他の教育指導機関の調査によれば、空気でのダイビングによる減圧症の発生確率は、0.004%(25,000回に1回)から、0.001%(100,000回に1回)の割合と推定されています。仮りに発症率が50%下がるとしても(あり得ないことですが)、発症率は0.002%にしかならないのです。
と真っ当なことが書かれています。たしかに減圧症が発生する確率は小さいので、有意差がないということですね。
3つ目は、喫煙に関しての記述がなかったことです。さらには推奨できる具体的身体条件に「ヘビースモーカーでない」と書かれており、「マジですか?」って思いました。
もちろん喫煙が即減圧症になるという話ではないですが、リスクファクターを減らすとう観点ではタバコを吸わないということは重要な話だと思います。ちなみにテクニカルダイビングの講習を始めるに当たって喫煙者には、普通であれば「タバコを辞めますか?それともダイビングを辞めますか?」という判断を迫られます。またタバコを吸うテクニカルダイバーは世界中何処でもテクニカルダイバーとみなされません。JAUSでも非喫煙者ということがVカード交付の条件になっていますし。
某団体のセミナーで「俺はヘビースモーカーで何十年もダイビングをやっているけど減圧症になったことがない。だからタバコは大丈夫。」と主張している人がいましたが、「いや確率論の世界に単なる一例を言っても全然意味が無いのでは?リスクファクターをどれだけ減らせるかという話だから別の話しているよね。お年を召しているのに勉強してこなかったんだな。可哀想に。」と思ってしまいましたよ。
その他にもいろいろ突込みどころはありましたが、全体的に「潜水医学入門―安全に潜るために」より読みやすく、また潜水障害の予防に関して重点的に書かれているのでダイバーであれば読んでおいて損はないと思います。
ちなみに
はまだ買っていません。読まないといけないなぁと思っているのですが(汗)
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(レーティングは独断と偏見w)